歯周病と全身疾患
歯周病の原因菌が気道や血液を介して全身に影響することがあります。 歯周病の歯肉からの出血に由来して、細菌性心内膜炎が起こるリスクが高くなると言われています。 また、老人などで肺炎の原因菌が口腔衛生の悪い歯周病患者の歯垢(プラーク)から検出されています。 さらに、妊婦の羊水から口腔内に由来する可能性のあるFuso bacteriumがみつかることがあり、血行性のものと思われます。 そして、胃潰瘍の原因菌であるHelicobacter pyloriが歯垢に住みついている可能性も指摘されているのです。 糖尿病についても、歯周病による悪化が認められます。
歯周病の特徴は自覚症状があまりなく慢性に経過することであり、知らぬ間に進行する恐い病気です。
もし全ての歯に5mm程度の歯周ポケットができたとすると、その面積は約72㎠に相当すると言われます。 これは9cm×8cmの大きさになりますが、仮にこの大きさの潰瘍が皮膚や内臓にあれば全身に大きな影響を与えます。 細菌がたくさん住みつく歯周ポケットも同じで、歯周病も全身に影響してくるのです。
糖尿病などといった病気を誘発し、またこれらの病気が歯周病を悪化させるという多方面の関係が明らかになってきました。
口の中の細菌は食べ物のかすなどを栄養分として増え、歯垢をつくります。 やがて細菌の出す毒素によって歯ぐきに炎症(歯肉炎)がおきます。 その中に悪い細菌が増殖し、細菌そのものや細菌がだす毒素が血液の中に入り込み全身をめぐり、体のいろいろなところで問題を引き起こします。
・妊娠・喫煙・肺炎・薬・心臓病・糖尿病
平成13年度に菊池保健所で行った生活習慣病に関する実態調査によれば、歯周病と血液検査結果に関連が認められました。
歯周炎と最高血圧、アルカリフォスファターゼ(ALP)、総蛋白、中性脂肪の間で統計学的に有意な関連性が認められました。 また、年齢、性別、歯磨き回数、喫煙習慣で調整した値では、ALPで要経過観察が2.21倍、総蛋白が軽度異常で2.35倍と歯周病に罹るリスクが高いことがわかりました。
歯周病は糖尿病を悪化させる要因となります。歯周病菌と戦う免疫細胞のマクロファージが産生する腫瘍壊死因子TNF-αなどがインスリンの活性に干渉し糖代謝が変化します。 このため血糖値の調節が不十分となり、網膜症や動脈硬化、肝障害などの糖尿病合併症の発生率が高くなるのです。
歯周病が心臓血液疾患を悪化させることがあります。
心内膜といわれる心臓の内側の膜や弁に血液を介して細菌感染がおこると、細菌性内膜炎といい、心不全につながることがあります。
歯科治療、特に抜歯との関係が古くから知られていますが、歯周病原因菌が心内膜炎から検出されたという報告もあります。
歯周病患者で歯肉の炎症がひどくなると血中のフイブリノーゲンが増加して血液の流動性が低下し、また、歯周ポケットからの持続的な細菌の侵入で免疫細胞、特にマクロファージの活動を増して動脈壁の硬化をひき起こし、結果として血栓形成を促進します。 このことが心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患を悪化させることがあります。
歯周病と誤臙性肺炎には深い関係があります。
老人や手術後の患者などで臙下反射が弱まり、誤って唾液が気管に入ってしまうと、歯垢(プラーク)にいる細菌が肺に感染して肺炎が起こるのです。 プラーク中には肺炎球菌などが共存しているためですが、歯周病と関連した嫌気性菌も作用して肺炎をより増悪させることがあります。 また、歯周病菌に対する免疫反応で増えたサイトカインと呼ばれる物質が、歯周ポケットから唾液中に出て肺に誤臙されると、炎症反応を刺激して肺炎を起こしやすくしたり悪化させたりします。
妊婦が直接的な歯周病の原因ではありませんが、歯周病を悪化させる可能性があります。
1つには妊婦初期のつわりなどの為に歯磨きが不十分となり、歯周病にかかりやすくなります。 次に、妊婦によるホルモンの影響があり、エストロゲン(卵巣ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)が増加すると、細胞増殖や血管透過性が亢進し、歯肉の腫れなどがおこりやすくなるのです。 さらに、妊娠性歯肉炎の原因菌のプレボテラ・インテルメディアは性ホルモンを発育素として増えることが知られています。
なお、この細菌の出す内毒素が早産や低体重児出産などの妊娠のトラブルと関連があると言われています。
歯周病の妊婦への影響に低体重児早産が考えられます。
歯周病の原因菌であるグラム陰性菌の産生する内毒素(リポ多糖体=LPS)のため、マクロファージや肥満組織などの炎症性細胞が増加します。 これらの炎症性細胞が分泌するプロスタグランジンE2(PGE2:子宮の収縮作用を持つ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などが増加すると、胎盤を介して胎児の成長を阻害したり、子宮筋の収縮を起こし早産をまねく可能性があるのです。
・てんかん治療薬のフェニトイン(ヒダントイン)は副作用として重症の線維性歯肉増殖を起こします。
・高血圧症治療薬のカルシウム拮抗剤(アダラートなど)も長期の服用により歯肉増殖を起こします。
この薬剤は比較的中高年に用いられるため、成人型の歯周炎を重症化させるのです。
これらの薬剤は細菌によりおこった歯周病に修飾因子として働き、炎症を進行させるのです。
治療法としては歯石除去と口腔清掃を徹底して行ない、可能なら薬剤を変更します。 さらに、フェニトインによるものでは肥大した歯肉の切除が必要になります。